大相撲の世界において、力士の人生を鮮やかに二分する決定的な境界線が存在します。それが「十両(正式名称:十枚目)」への昇進です。十両以上の力士は「関取」と呼ばれ、社会人としての給与や特権を享受できる一方、そのすぐ下に位置する幕下以下は「養成員」として無給に近い生活を余儀なくされます。
土俵上のわずか一星(1勝)の差が、文字通り生活水準を180度激変させるこのシステムは、古くから角界で「天国と地獄」と称されてきました。日本相撲協会の給与規定や各種手当、力士褒賞金の仕組みを紐解きながら、十両力士が実際に手にするリアルな収入と出費の実態を客観的データに基づいて徹底解説します。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 要点1:十両の月給は日本相撲協会の給与規定により月額110万円。年2回のボーナスや各種手当を合算すると、額面の十両年収は約1,600万〜1,800万円に達する。
- 要点2:幕下以下には固定給(基本給)が存在せず、年6回の手当のみ。十両昇進によって年収が一気に15倍以上に跳ね上がることが「天国と地獄」と呼ばれる最大の要因。
- 要点3:勝ち越しによる力士褒賞金の積み立てや将来の退職金受給権など経済的恩恵は莫大だが、付け人への小遣いや交際費といった「関取特有の出費」も大きく、手取りの管理がシビアに求められる。
【月給一覧】十両の給料はいくら?幕内・役力士との最新比較データ
力士が日本相撲協会の正規職員に準ずる「月給制」の対象となるのは、十両以上の番付からです。十両力士の基本給は月額110万円(年間1,320万円)と定められています。幕下から十両へ上がった瞬間、口座に毎月3桁の給与が振り込まれる生活へとシフトします。
最高峰の横綱から十両、そして幕下以下の待遇差を可視化するため、相撲協会の公表データおよび報道各社の取材情報をもとに、階級ごとの給料体系を整理しました。
| 番付・階級 | 月給(基本給) | 推定基本年収(賞与含む) | 主な支給形態・待遇待遇 |
|---|---|---|---|
| 横綱 | 約300万円 | 約4,500万円〜 | 最高位待遇、専属付け人複数名、退職金最高額 |
| 大関 | 約250万円 | 約3,700万円〜 | 移動時のグリーン車利用、各種手当の加算 |
| 三役(関脇・小結) | 約180万円 | 約2,700万円〜 | 役職手当支給、本場所ごとの手当増額 |
| 前頭(幕内平幕) | 約140万円 | 約2,100万円〜 | 懸賞金の獲得対象、幕内手当の支給 |
| 十両(十枚目) | 約110万円 | 約1,600万〜1,800万円 | 関取のスタートライン、個室・付け人配置 |
| 幕下以下(幕下〜序ノ口) | 0円(無給) | 約40万〜100万円 | 「場所手当」のみ支給(幕下で1場所16.5万円程度) |
幕内給料比較を行うと、同じ関取でも前頭へ昇格すれば月給が約30万円上乗せされ、さらに本場所での懸賞金(1本あたり手取り3万円)を獲得できるチャンスが生まれます。しかし、何よりも過酷かつ劇的な格差が存在するのは、十両と幕下のあいだです。
「天国と地獄」の真相|十両と幕下で給料・待遇が激変する構造的理由
相撲関係者が異口同音に「天国と地獄」と呼ぶ理由は、単純な月給の有無にとどまりません。大相撲の伝統的な身分制度において、十両は「一人前の武士(プロアスリート)」として扱われますが、幕下以下は「部屋に住み込みで修行する見習い書生」という位置づけになります。
十両に昇進した力士には、以下のような劇的な生活環境の変化が訪れます。
- 個室の付与と一人暮らしの許可:大部屋での集団生活・雑魚寝から解放され、相撲部屋内に個室が与えられます。実績や師匠の許可次第では、部屋の外にマンションを借りて暮らすことも認められます。
- 身の回りの世話をする「付け人」の配置:幕下以下の若い衆が付け人として配置され、着替えの手伝い、荷物持ち、身辺の雑務をサポートしてくれます。
- 装束・身だしなみの格上げ:稽古時の廻しが黒い木綿から「白の絹廻し」へと変わり、本場所の土俵入りでは豪華な「化粧廻し」、頭髪は「大銀杏(おおいちょう)」を結うことが許されます。移動時の服装も浴衣から紋付羽織袴へと格上げされます。
対照的に、幕下力士はどれほど土俵上で実力があろうとも、相撲協会の制度上は給料ゼロです。年に6回開催される本場所ごとに支給される「場所手当」(幕下で1回あたり約16万5,000円)が唯一の公的な現金収入であり、年間を通しても手当の総額は100万円前後に過ぎません。部屋でのちゃんこ番や掃除、関取の身の回りの世話をこなしながら、無給に近い状態で過酷な稽古に耐える日々が続きます。十両昇進をかけた幕下上位の取組が「命がけの戦い」と呼ばれる背景には、このシビアな経済格差があります。
リアルな十両年収の内訳|ボーナス・各種手当・力士褒賞金の仕組み
「十両の基本給は年間1,320万円」と聞くと、一般的なビジネスパーソンと比べて十分に高給に見えます。しかし、力士の総収入は基本給だけで構成されているわけではありません。十両ボーナス手当や各種の手当、そして大相撲独特のインセンティブである力士褒賞金が加算されます。
1. 年2回の賞与(ボーナス)と本場所手当
関取には、日本相撲協会から年2回(夏期・冬期)の賞与が支給されます。十両力士の場合、1回につき基本給のおよそ1ヶ月分強が支払われるため、年間で約220万〜250万円前後のボーナスが上乗せされます。さらに、本場所ごとに支給される力士補助金や稽古場手当などの細かな手当を合わせると、これだけで年間数百万円のプラスとなります。
2. 勝ち越し給与変動を左右する「力士褒賞金」
相撲界の収入を語る上で欠かせないのが「力士褒賞金」です。これは本場所の成績に応じて積み立てられるポイントのようなもので、関取でいる限り年6回の本場所ごとに支給されます。
十両昇進を果たした時点で、基準となる「持ち給金」の最低保証(40円)が設定されます。勝ち越し1点につき持ち給金が50銭(金星なら10円)加算され、支給額は「持ち給金 × 4,000倍」という計算式で算出されます。最低保証の40円であっても、本場所ごとに16万円、年間で96万円が手堅く支給されます。勝ち越しを重ねて持ち給金を増やしていけば、基本給とは別に受け取れる褒賞金の額も雪だるま式に膨らんでいきます。
3. 十両優勝賞金
もし十両の土俵で15日間戦い抜き、十両最高優勝を果たした場合、相撲協会から優勝賞金200万円が授与されます。これらを合算した結果、十両力士のリアルな額面年収は、好成績を残した年であれば1,800万円〜2,000万円近くに達することもあります。
【実態検証】元力士の手記と証言が語る「関取の財布事情と見えない出費」
高額な年収に思える十両ですが、関係者の証言や引退した元関取たちの自著・手記を読むと、華やかな数字の裏にある厳しい懐事情が浮き彫りになります。
元十両力士がテレビ番組の特番インタビューで語った言葉に、「十両に上がって給料袋を見たときは震えるほど嬉しかったが、1年経ったときに手元にほとんど金が残っていなくて青ざめた」という告白があります。なぜ額面で1,600万円以上稼ぎながら、資金繰りに苦しむケースがあるのでしょうか。
その背景には、関取という身分に伴う特有の支出構造があります。
- 付け人制度手当(小遣い・食事代):付け人は相撲協会から給与をもらっていないため、身の回りの世話をしてくれる感謝として、関取自身のポケットマネーから小遣いを渡すのが角界の慣習です。本場所ごとの手当や日々の飲食代、遠征時の諸経費を関取が全額負担するため、付け人2〜3人を抱えるだけで年間数十万〜数百万円が飛んでいきます。
- 税金(所得税・住民税・個人事業主としての経費):力士は相撲協会と専属契約を結ぶ個人事業主(プロスポーツ選手)の扱いに近いため、翌年に重い住民税や所得税がのしかかります。確定申告で経費計上できる枠はあるものの、税金の準備を怠ると深刻な資金難に陥ります。
- 後援会・関係者への返礼・付き合い:化粧廻しや着物を新調してもらったタニマチ(後援者)への挨拶回り、祝勝会や激励会での振る舞い酒、冠婚葬祭の祝儀・不祝儀など、角界の格式を保つための交際費は一般的な社会人の常識を遥かに超えます。
公の場で見せる堂々とした振る舞いの裏で、十両力士たちは自らの財布から出る膨大な支出と日々向き合っています。幕内上位のように数百万円単位の懸賞金が入らない十両では、豪快にお金を使いすぎると簡単に収支が赤字へ転落するリスクを孕んでいます。
一般に知られていない盲点と誤解|十両で居続けることの過酷さと力士退職金制度
ネット上やファンの間では、「一度十両に上がれば将来安泰」「一生食いっぱぐれない」といった誤解が散見されます。しかし、現実ははるかにシビアです。
1. 幕下へ陥落した瞬間に「無給」へ逆戻りする恐怖
大相撲の番付は完全実力主義であり、怪我や体調不良による救済措置(公傷制度の廃止以降)は基本的にありません。十両下位で負け越せば、翌場所には容赦なく幕下へ突き落とされます。
幕下に転落した瞬間、月給110万円は即座にゼロになり、個室も没収されて大部屋へ戻り、再び付け人として兄弟子の世話をする側へ逆戻りします。この心理的・経済的ショックに耐えきれず、幕下に落ちた直後に引退を決意する力士も少なくありません。
2. 力士退職金制度の恩恵を受けるための条件
相撲界には手厚い退職金制度(養老金など)が整備されていますが、その受給要件には厳しい壁が設定されています。力士退職金は「関取(十両以上)に通算3場所以上在位した力士」でなければまとまった金額が支給されません。
十両にわずか1場所、2場所しか在位できずに幕下へ戻り引退した場合、退職金は極めて少額にとどまります。逆に関取在位が数年以上続けば、退職時に数千万円単位の養老金が支給され、セカンドキャリアの貴重な元手となります。力士たちが何としてでも十両の座にしがみつこうとするのは、目先の月給だけでなく、将来の退職金受給権を確保するための死活問題だからです。
【プロの結論】相撲界の極端な実力主義が現代の若手育成に投げかける光と影
大相撲が長年守り続けてきた「十両と幕下の給与格差」は、組織社会学や心理学の観点からも極めて特異なインセンティブ設計です。
心理学における外発的動機づけ(金銭的報酬や社会的地位)をこれほど極端に高低差をつけたシステムは、力士たちに猛烈なハングリー精神を植え付け、土俵上での極限の気迫を生み出す源泉となってきました。「負ければ無給の部屋暮らし、勝てば年収数千万円の関取」というコントラストが、競技レベルを極限まで押し上げてきた功績は否定できません。
しかし、近年のスポーツ科学やキャリア形成の視点に照らし合わせると、この構造には大きな影も存在します。幕下以下の若手・中堅力士が怪我や過度の肉体的負荷によって志半ばで土俵を去る際、経済的な蓄えがほぼゼロの状態で社会に放り出されてしまうリスクです。給与格差が生み出す極限の緊張感とドラマ性は相撲文化の醍醐味である一方、土俵を支える無数の養成員に対する最低限の生活保障やセーフティネットのあり方については、日本相撲協会が向き合い続けるべき重要な課題といえます。
【十 両 の 給料】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:十両力士は懸賞金をもらうことができますか?
A1:原則として十両の取組には懸賞金が設定されません。懸賞旗が回るのは幕内の取組に限られています。ただし、十両上位の力士が幕内の取組に対戦相手として組まれた(いわゆる「幕内後半戦への出場」)場合に限り、その取組に懸賞がかけられていれば獲得できる例外規定が存在します。
Q2:十両力士の手取り額はどれくらいになりますか?
A2:額面年収が1,600万〜1,800万円程度であっても、所得税、住民税、社会保険料(国民年金・国民健康保険等に相当する協会制度)が控除されます。さらに付け人への小遣いや遠征費の持ち出しを考慮すると、力士が自由に使える純粋な年間手取り額は実質800万〜1,000万円前後まで目減りするのが一般的です。
Q3:幕下へ落ちた場合、前月までの十両給料の貯金は没収されますか?
A3:過去に支給された給与や褒賞金が相撲協会に没収されることは一切ありません。本人の個人財産として守られます。ただし、幕下に転落した翌月からは固定給が一切支給されなくなるため、蓄えた資金を取り崩しながら関取復帰を目指す生活となります。
まとめ:関取という称号の重みと土俵に生きる男たちの覚悟
十両の給料は、単なる労働の対価ではありません。入門以来、過酷な稽古と理不尽なまでの下積みに耐え、幕下という底知れぬ沼を這い上がってきた選ばれし者だけに与えられる「一人前の男の証明」です。
月給110万円、年収1,600万円超という豊かな報酬の裏には、1場所の負け越しで全てを失いかねない凄まじい重圧と、関取としての矜持を保つための見えない出費が存在します。本場所の土俵で繰り広げられる十両の取組を見つめるとき、力士たちが背負っている生活のすべてと、番付一枚をめぐる壮絶な覚悟の重みが見えてきます。 (出典: 十 両 の 給料(Yahoo!ニュース))